明治工芸

宮川香山とは|眞葛焼と高浮彫で世界を驚かせた明治の陶芸家を紹介

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宮川香山(みやがわ こうざん)は、明治時代に活躍した日本を代表する陶芸家の一人です。「眞葛焼(まくずやき)」と呼ばれる繊細かつ大胆な陶磁器を生み出し、その超絶技巧と芸術性の高さは国内外で高く評価されました。

特に、立体感あふれる装飾技法「高浮彫(たかうきぼり)」は香山の代名詞とも言える技法で、現代の陶芸家にも多大な影響を与えています。

「宮川香山はどんな人物なの?」
「宮川香山の代表作を知りたい」

宮川香山に興味を持っている方は、上記のような情報を求めているでしょう。

そこで本記事では、そんな宮川香山の生涯や代表作、生み出した陶磁器の特徴を紹介します。陶磁器の興味のある方は、ぜひ参考にしてください。

宮川香山(みやがわ こうざん)とは

宮川香山は、明治時代を代表する陶芸家であり「眞葛焼(まくずやき)」および超絶技巧「高浮彫(たかうきぼり)」の創始者として知られています。1842年に京都・真葛ヶ原に生まれ、代々やきものを家業とする家系に育ちました。

父は九代茶碗屋長兵衛(楽 長造)で、幼少期から陶芸の素地を培いました。明治政府の殖産興業政策に伴い、香山の作品は世界各国の万国博覧会に出品され、その緻密で立体感あふれる技術により高く評価された人物です。

特に「高浮彫」は、彫刻のような精緻な装飾を施す技法で、多くの作品が海外へと輸出され「MAKUZU」として人気を博しました。また、幕府の御用を賜り、御所への献上品も制作するなど、当時の芸術界における重要な地位を築いていました。

宮川香山は、日本陶芸の近代化と国際的評価に大きく貢献した陶工です。

宮川香山の代表的な陶磁作品5選

ここからは、宮川香山の代表的な陶磁作品を5つにまとめて紹介します。

七宝筒形灯籠鳩細工桜

「七宝筒形灯籠鳩細工桜」は、宮川香山が異素材との融合に挑んだ意欲作です。灯籠の明かり部分には七宝技法が施されており、その色彩の美しさと透明感が作品全体に華やかさを添えています。

制作時期は明治14年(1881)頃とされ、香山が最も創造性を発揮していた時代の作品です。桜の中に佇む鳩の細工も繊細で、陶磁だけでなく金工や漆芸など他分野の工芸技術を積極的に取り入れた香山の柔軟な表現力を感じさせます。

素材を超えて調和を生み出すその技術は、まさに工芸の総合芸術と呼ぶにふさわしい作品です。

鷹ガ巣細工花瓶一対

「鷹ガ巣細工花瓶一対」は、宮川香山の超絶技巧が存分に発揮された代表的な作品です。粉雪が積もる巣の中で、口を開けて餌を待つ3羽のヒナと、それを見守る親鷹の姿が立体的に表現されています。

巣や幹のゴツゴツとした質感は、細部にまでこだわった造形美を感じさせます。一方で、器体には華やかな金彩が上絵付で施されており、自然の荒々しさと装飾の優美さが見事に融合した作品です。

一対で構成されたこの作品は、香山の「高浮彫」技法の真骨頂といえるでしょう。

猫二花細工花瓶

「猫二花細工花瓶」は、宮川香山の高浮彫技法による繊細かつ愛らしい作品のひとつです。満開に咲き誇る薔薇の下で、毛並みを整える一匹の猫が描かれており、その姿はまるで今にも動き出しそうなほど写実的です。

猫の柔らかな毛並みは一本一本丁寧に表現され、耳の内側や薄く出した舌に至るまで精緻に作り込まれています。植物の華やかさと動物の素朴な仕草が融合した本作は、香山の観察力と造形力、そして芸術的感性を余すところなく伝える逸品です。

磁製鯉図鉢

「磁製鯉図鉢」は、宮川香山の卓越した絵付け技法と造形美が調和した優品です。鉢の柔らかな曲線に沿って、数匹の鯉が水中を泳ぐ姿が釉下彩(ゆうかさい)で丁寧に描かれています。

その動きはまるで生きているかのように自然で美しいです。釉下彩とは、素地に絵付けを施した後に釉薬をかけて焼成する技法で、色彩に深みと透明感をもたらします。

磁製鯉図鉢では、器の形状と絵画的表現が見事に融合し、香山の空間感覚と構成力の高さをうかがわせます。静けさと生命感が共存する、洗練された一品です。

氷窟ニ鴛鴦花瓶

「氷窟ニ鴛鴦花瓶」は、宮川香山が自然美と情感を巧みに表現した作品です。花瓶の氷窟をのぞき込むと、そこには寄り添わず視線を合わせない2羽の鴛鴦(おしどり)の姿が静かに佇んでいます。

垂直に伸びる氷柱には水分を含んだようなリアルな質感が再現されており、冷気すら感じさせるほどの繊細な表現が施されています。

その構図やモチーフは、伊藤若冲の「動植綵絵(どうしょくさいえ)」と類似しており、日本美術の伝統と近代工芸の融合を感じさせる作品です。香山の観察眼と芸術的解釈が見事に結実した逸品といえるでしょう。

宮川香山の歴史・年表

ここでは、宮川香山の生涯の主な出来事を年表形式で紹介します。

年代出来事
1842年(天保13年)京都真葛ヶ原で生まれる
1860年父と兄を続けて亡くし家督を継ぐ
1866年(慶応2年)幕府から御所に献上する飾棚付茶器大揃の制作を受注
1870年(明治3年)苗代川焼の改良のため、薩摩に招聘される輸出向けの陶磁器を製造するため、横浜へ向かう
1871年(明治4年)横浜太田村字富士山下に眞葛窯を開窯
1876年(明治9年)フィラデルフィア万国博覧会に出品された眞葛焼が世界で絶賛される
1878年(明治11年)パリ万博で金牌を受賞
1888年(明治21年)家督を養子・半之助に譲る
1896年(明治29年)帝室技藝員を拝命
1916年(大正5年)死去。享年75。

宮川香山の生涯は、日本陶芸の近代化と国際的評価の獲得に大きく貢献した歩みでした。1842年に京都で生まれ、家業である陶業を早くから継ぐことになります。

幕末には幕府からの御用を受けるなど、その技術はすでに高く評価されていました。明治維新後は、薩摩での技術指導を経て横浜へ移り、輸出用の陶磁器制作に取り組みます。

1871年の眞葛窯開窯を機に、香山の名は国内外に知られるようになり、万国博覧会での受賞はその名声を決定づけました。後年は養子に家督を譲りながらも制作を続け、1896年には帝室技藝員という名誉ある地位を授かります。

1916年に75歳で逝去するまで、香山は常に時代の先を見据え、伝統と革新を融合させた作品を世に送り出しました。その足跡は、日本の陶芸史において今もなお重要な位置を占めています。

宮川香山が作る陶磁作品の特徴2選

ここでは、宮川香山が作る陶磁作品の特徴を2つにまとめて紹介します。

特徴①:世界で称賛された眞葛焼

眞葛焼(まくずやき)とは、宮川香山が明治初期に横浜で開いた「眞葛窯(まくずがま)」で生み出された陶磁器の総称です。従来の京都風のやきものとは一線を画し、釉薬の使い方や造形、絵付け技法に革新をもたらしました。

特に海外輸出を目的として制作されたため、西洋の嗜好を反映した華やかな意匠や写実的な表現が特徴です。異国情緒と日本的美が融合した芸術性の高い作品群として世界で高く評価されました。

眞葛焼は、1876年のフィラデルフィア万国博覧会をはじめ、パリ万博などでも数々の賞を受賞しています。写実的な描写や精緻な装飾、陶磁器の枠を超えた多素材との融合によって、明治期の輸出工芸の象徴として世界の美術界に大きな衝撃を与えました。

特徴②:超絶技巧「高浮彫」

宮川香山を語るには「高浮彫」の存在も欠かせません。高浮彫とは、器の表面に立体的な装飾を施す技法であり、あたかも彫刻作品のようにモチーフが浮かび上がるのが特徴です。

宮川香山はこの技法を陶磁器に応用し、動植物や風景をまるで本物のように写実的かつ立体的に表現しました。釉薬の下に細工を施す「釉下彩」と組み合わせることで、装飾に奥行きと透明感を持たせ、唯一無二の美しさを創出しています。

鷹や猫、花々などの細工は、羽毛一本、花弁一枚に至るまで精密に作られており、その緻密さと仕上がりの美しさから「超絶技巧」と評されました。単なる実用陶器にとどまらず、美術工芸品としての評価を確立した高浮彫の作品は、明治時代の日本が誇る技術力と美意識の結晶です。

宮川香山は、この技法を極限まで高め、国内外の万国博覧会で高い評価を受けました。

宮川香山の作品を見られる美術館

宮川香山の作品を実際に鑑賞できる代表的な施設が、神奈川県横浜市にある「宮川香山 眞葛ミュージアム」です。香山が晩年を過ごし、眞葛焼を生み出した地に設立された同館では、高浮彫をはじめとする超絶技巧の作品を常設展示しています。

明治期の万国博覧会に出品された希少な作品も含まれており、香山の芸術世界を間近で体感できる貴重な空間です。また、横浜美術館や京都国立近代美術館などでも特別展や所蔵品展で紹介されることがあります。

日本の陶芸史を語る上で欠かせない香山の作品を、ぜひ実物でご覧ください。

銀座真生堂では明治期の作品を取り扱っています

銀座真生堂では、宮川香山の作品と同じ時代に作られた明治の工芸品「七宝焼」を取り扱っております。七宝焼は美しい模様や色彩が表現された、現代の技術では再現できないとされる超絶技巧品です。

銀座真生堂は、唯一の明治期の七宝焼専門店として常時、並河靖之、濤川惣助など名工の作品を保有できています。美術館などでガラス越しにしか見ることが出来なかった並河靖之、濤川惣助の作品を実際にお手に取って鑑賞、ご購入出来る唯一のギャラリーです。

また、銀座真生堂では所有している作品を美術館での展覧会などへ貸出すなど文化活動も行なっております。ご興味のある方は、気軽にお問い合わせください。

まとめ

宮川香山は、明治時代の日本陶芸界において革新をもたらした巨匠です。京都に生まれ、横浜に「眞葛窯」を開いて創出した「眞葛焼」は、繊細な造形美と異素材との融合によって国内外で高く評価されました。

特に、高浮彫と呼ばれる立体装飾の技法は、陶磁器の表現の限界を押し広げ、芸術性を極限まで高めたものです。鷹や猫、鴛鴦などを写実的に表現した作品群は、今なお世界中の美術ファンを魅了し続けています。

また、香山の作品は、明治日本の工芸技術の象徴として国際博覧会での評価や帝室技藝員任命といった歴史的評価にも裏打ちされています。興味のある方は、宮川香山の実際の作品を見てみましょう。

執筆者
銀座真生堂
銀座真生堂
メディア編集部
七宝焼・浮世絵をメインに古美術品から現代アートまで取り扱っております。 どんな作品でも取り扱うのではなく私の目で厳選した美しく、質の高い美術品のみを展示販売しております。 このメディアで、美術品の深みや知識を発信していきます。
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