七宝(七宝焼)

加納夏雄の魅力を徹底解説!日本の金工を世界に知らしめた男

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金工家・加納夏雄(かのう なつお)は、明治期における日本の金属工芸史において有名な存在です。

刀装具の彫金から始まり、やがて明治政府による新貨幣や天皇の御剣装飾といった国家的事業を担うまでに成長した人物です。加納夏雄のその技は、「超絶技巧」と称され世界を驚かせました。

「加納夏雄はどんな作品?」
「加納夏雄の歴史や年表は?」
「加納夏雄の作品はどこで見れる?」

なかには、上記のように加納夏雄について知りたい方もいるでしょう。

そこで本記事では、加納夏雄の生涯や歴史をはじめ、代表的な作品5選など幅広く掘り下げてご紹介します。ぜひ参考にしてください。

なお、加納夏雄が製作していた金工について詳しく知りたい方は、次の記事もあわせてご覧ください。

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加納夏雄とは

加納夏雄(かのうなつお)は、幕末から明治期に活躍した日本を代表する金工家・彫刻師です。京都の米商人のもとに生まれ、幼少より刀剣商人の加納治助の養子となりました。

その後19歳で独立し、刀装具の制作を始めながら自分で身を立てています。1854年には江戸に進出して店を構え、卓越した鍔(つば)や小柄(こづか)など刀装具で名を馳せました。

また、明治新政府が発行した新貨幣の「龍」図案彫刻を手掛けた人物として知られます。超絶的な彫金技術による作品は国内外で高い評価を受け、各種博覧会での受賞や帝室技芸員任命など数々の栄誉に輝きました。

加納夏雄が残した実績

加納夏雄が生涯で残した実績には、次の2つがあります。

明治貨幣の硬貨デザイン

加納夏雄は、明治政府による新たな近代貨幣制度の確立のためにも尽力しています。1869年、政府は新貨幣の発行に際し、そのデザインを加納夏雄とその一門に原型を依頼しました。

当初、硬貨を鋳造するのはイギリスで行う予定でした。しかし、加納らが作成した原型は、英国人を驚かせ、わざわざ英国に依頼する必要がないと言われるほどの技術でした。

最終的には、新貨幣12種類の製作をすべて加納とその一門衆で行い、旧五円金貨や銀貨に彼のデザインが採用されています。

明治天皇の御剣用・拵金具の制作

加納夏雄は明治天皇御用品の制作も度々任されています。なかでも著名なのが明治天皇御剣『水龍剣』の拵え金具です。

1872年、正倉院伝来の聖武天皇御剣であった8世紀の直刀を明治天皇がたいそうお気に召しました。そこで、自ら佩用するため新たな拵え(刀の外装)を作らせることになりました。

この辺りから宮内省御用達となり、明治天皇御用品の制作をしています。現在は、重要文化財として東京国立博物館に所蔵されています。皇室の御剣を飾る金具を任されたことは、当時最高峰の金工師であった証と言えるでしょう。

加納夏雄の代表的な金工作品5選

ここでは、加納夏雄の代表的な金工作品を5つ紹介します。

鯉魚図額

出典元:文化遺産オンライン

『鯉魚図額』は東京国立博物館所蔵で、明治期の第三回内国勧業博覧会において妙技一等賞を受賞し、その後宮内省に買い上げられた名品です。

廃刀令により刀装具の需要が激減する中、加納夏雄はその高度な彫金技術を活かし、美術工芸としての金工に転向しました。

本作は鉄地の額装飾に、川を遡る躍動的な鯉の姿を高肉象嵌や綿密な彫金によって表現し、水面の揺らぎや鱗の質感までを写実的に再現しています。技巧の粋を極めた夏雄の代表作であり、明治工芸の到達点を示す作品として国内外で高く評価されています。

月に雁図額

出典元:文化遺産オンライン

『月に雁図額』は、1897年制作で東京国立博物館に所蔵されています。加納夏雄が刀剣金工から転じ、絵画的表現の額や花瓶製作に注力した代表例です。

鉄地に銀の平象嵌で静かな満月を表し、雁の群れを片切彫で繊細に描いた額装飾です。まるで日本画の筆致をそのまま金属に写したような情景美を湛えており、画面構成や余白の美しさも見事に調和しています。

日本画の筆致を金属で表現したような絵画的作品で、夏雄が得意とした写実表現と詩情の融合を示す集大成といえます。

百鶴図花瓶

出典元:皇居三の丸所蔵館

『百鶴図花瓶』は宮内庁三の丸尚蔵館の作品で、1890年の第三回内国勧業博覧会で妙技賞を受賞した大花瓶です。

真鍮など金属素材に無数の鶴を精緻に彫金・象嵌したデザインが特徴です。一対の銀製花瓶に左右合わせて百羽の鶴を鋭い片切彫で表現しており、緻密さと躍動感が際立ちます。

受賞後に明治宮殿『桐の間』に飾られたと伝えられ、皇室御用品として格調高い意匠を凝らした作品です。宮内庁三の丸尚蔵館のため、なかなかお目にかかれない作品となっています。

秋草狸図印籠

出典元:GoogleArts&Culture

『秋草狸図印籠』は清水三年坂美術館所蔵の印籠作品です。印籠は基本蒔絵として作られることが多いですが、この作品はその他の素材、技法で作られています。

さまざまな金属が象嵌され、金工による根付と小締が付けられています。また、草の中に狸が描かれた趣向の印籠で、加納夏雄による極めて珍しい『金工の印籠』です。

木製の印籠表面に様々な金属を精巧に作り、さらに根付や緒締めに至るまで金属細工で作られた逸品です。

一輪牡丹図鐔

出典元:文化遺産オンライン

『一輪牡丹図鐔(いちりんぼたんずつば)』は、東京国立博物館に所蔵されています。江戸から明治時代にかけて活躍した金工師・加納夏雄(かなう なつお)による作品で、19世紀に制作されたとされています。

『一輪牡丹図鐔』は東京国立博物館に所蔵されており、一輪の牡丹の花が高肉彫で表現された刀装具の鐔(つば)です。この鐔は、刀の鍔としての機能を持ちながら、芸術性の高い装飾が施された刀装具の一つです。

余白には、牡丹の花弁や葉脈が生き生きと彫り込まれており、加納夏雄の卓越した彫刻技術と美意識を伝える名作となっています。刀装具から発展した夏雄の作風を象徴する作品として評価されています。

加納夏雄の歴史・年表

加納夏雄の生涯を、年代順に主要な出来事を年表で紹介します。

項目詳細
1828年京都柳馬場御池の米穀商・伏見屋治助の子として生まれる。
1835年7歳で刀剣商・加納治助の養子となる。
1840年12歳で奥村庄八に彫金を学ぶ。
1842年14歳で円山四条派の中島来章に写生画法を学ぶ。
1846年19歳で京都に工房を構え「夏雄」と号して刀装具彫金師として活動開始。
1854年27歳のとき江戸に移り、神田に店を開く。
1869年明治新政府御用彫刻師となり、宮内省より明治天皇の御刀拵金具の彫刻制作を拝命。
1872年新貨幣鋳造の原型制作係にも抜擢・製造。
1876年活動の場を工芸品制作に移し、煙草入れ・煙草盆、根付、花瓶、置物、額、飾り金具など多彩な作品制作で新境地を開拓。
1881年第2回内国勧業博覧会に《鯉魚図額》を出品し、妙技一等賞を受賞。
1890年第3回内国勧業博覧会に《百鶴図花瓶》を出品して再び妙技一等賞を受賞。
東京美術学校(現東京芸術大学)彫金科の初代教授にも就任。
1898年2月3日、東京にて死去。享年69歳。

加納夏雄が作る京薩摩作品の特徴3選

加納夏雄が作る京薩摩作品の特徴には、次の3つがあります。その3つの特徴について詳しく見ていきましょう。

特徴①:超絶技巧の金工技術

刀剣の時代から培われた卓越した彫金・金工の技が、加納夏雄作品最大の特徴です。特に鏨(たがね)を斜めに使って片側だけを彫り下げる片切彫を得意とし、高肉彫や色金の象嵌など複雑精緻な技法を極めました。

その他にも、鍛金(たんきん)、彫金、象嵌(ぞうがん)、色絵金工といった多彩な技法を駆使しています。その緻密さと仕上げの気品において他の追随を許さず、まさに「超絶技巧」と称されています。

特に象嵌は、金・銀・銅など異なる金属を精緻に嵌め込み、色彩や質感の対比を生かした作品は加納夏雄の象徴とする装飾です。

特徴②:西洋の写実主義を取り入れた精密表現

加納夏雄は若くして円山四条派の絵師から写生画を学びました。その経験から得た西洋的な遠近法や陰影表現を金工にも応用しています。

明治維新後、その経験を活かし、動植物や人物、風景を驚くほどリアルに表現しました。特に昆虫、花鳥、龍、虎、人物の細密な描写は圧巻です。

金属面に日本画の筆致を写すかの如き描写力は海外でも高く評価され、万博でも注目を集めました。彫金技術を通じて、写実と装飾性を高度に融合させた作風は加納独自の芸術世界を築き上げ、近代金工の最高峰と称されました。

彼の作品は美術工芸の枠を超え、日本美術の新たな表現を切り開いたといえます。

特徴③:宮内省御用達の格式と格調高さ

加納夏雄は帝室技芸員に選ばれたことは加納作品の格調高さを物語ります。度々、皇室関連の調度品や式典用具を制作しました。

そのため、彼の作品は非常に格調高く、華美ではあっても決して下品ではない「品格のある豪華さ」があります。例えば、皇室に納められた《百鶴図花瓶》をはじめとする作品です。

その作品には威厳と品位が備わっており、明治宮廷の格式に相応しい風格を湛えています。皇室お抱えの工芸家として培った誇りが、作品の細部にも表現されているのです。

加納夏雄の作品を見られる美術館

加納夏雄の貴重な作品は現在、国内の次の美術館・博物館で所蔵・展示されています。

  • 東京国立博物館
  • 皇居三の丸尚蔵館
  • 清水三年坂美術館
  • 京都国立近代美術館

東京国立博物館や清水三年坂美術館、京都国立近代美術館に所蔵されている加納作品を見ることができます。ただし、皇室ゆかりの品々を収める皇居三の丸尚蔵館(東京)で所蔵されている《百鶴図花瓶》を含む作品はなかなか見ることができません。

見る機会が少ない加納作品もあるため、見る機会が訪れた際には美術館に足を運んでみましょう。

銀座真生堂では明治期の作品を取り扱っています

銀座真生堂は、明治時代の美術工芸品を専門に扱うギャラリーです。

特に明治期の七宝焼(七宝)に注力しており、並河靖之や濤川惣助といった当時を代表する名工の作品を豊富に取り揃えています。同時代の超絶技巧を凝らした七宝焼を数多く紹介しており、明治工芸の粋に触れられるギャラリーとなっています。

また、銀座真生堂では所有している作品を展覧会へ貸出すなど文化活動も行なっております。ご興味のある方は、お気軽にお問い合わせください。

まとめ

加納夏雄は、写実的な彫金技術と格式ある作風で明治の美術界に大きな足跡を残した工芸家です。新貨幣の意匠制作や宮中の御用品製作を通じて、日本の金工技術を国家的水準に高めた立役者ともいえます。

また、刀装具から始まり、印籠や花瓶、額といった多彩な作品を残しています。その多くが皇室や美術館に所蔵されていることも、彼の芸術的価値の高さを物語っています。

本記事では、加納夏雄の代表作や技術的特徴、美術館での鑑賞方法を紹介しました。加納夏雄の世界に触れることは、日本工芸の粋を味わう第一歩となるでしょう。

執筆者
銀座真生堂
銀座真生堂
メディア編集部
七宝焼・浮世絵をメインに古美術品から現代アートまで取り扱っております。 どんな作品でも取り扱うのではなく私の目で厳選した美しく、質の高い美術品のみを展示販売しております。 このメディアで、美術品の深みや知識を発信していきます。
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