明治工芸

錦光山とは?京都の名工が生んだ美の世界と代表作

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錦光山(きんこうざん)は、京薩摩を牽引した一族です。明治期に陶工一族の名字として、3代目から使用されてきました。

錦光山が作った京薩摩は、白磁に金彩と絵付けを施した華麗な陶器として、万国博覧会や海外の人も魅了しました。単なる陶磁器の枠を超え、明治美術工芸の到達点とも言われています。

「錦光山はどんな作品?」
「錦光山の歴史や年表は?」
「錦光山の作品はどこで見れる?」

なかには、上記のように錦光山について知りたい方もいるでしょう。

そこで本記事では、錦光山の歴史や代表作、作品の特徴に加え、現代で作品を鑑賞できる美術館を紹介します。ぜひ参考にしてください。

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錦光山(きんこうざん)とは

錦光山(きんこうざん)は、京都・粟田口の陶工一族の名字で、明治期に「京薩摩」(※)を手がけたことで知られています。江戸時代前期の1645年頃に初代・徳右衛門が粟田で開窯し、その後代々京都の御用達窯として技術を磨いてきました。

幕末から明治にかけて6代・7代目が薩摩焼に京都独自の絵付を融合させた「京薩摩」を開発し、数多くの作品を生み出しました。

特に七代宗兵衛は若くして家督を継ぎ、海外視察を重ねながら製品改良に努め、錦光山ブランドを世界に広めた陶業家です。また、海外視察による製品改良の功績が認められ明治政府から緑綬褒章を授与されています。

(※)京薩摩
京都で作られた薩摩焼のこと。白素地に多彩な色絵と金彩が施された、細やかで華やかな絵付けが特徴のやきものとして知られている。

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錦光山の陶器づくりを支えた登り窯

出典元:焼陶房

錦光山の京薩摩作品の裏には、大量生産と高品質を可能にした登り窯の存在がありました。登り窯とは、斜面に沿って複数の焼成室が連なる窯です。

高温焼成と効率的な連続焚き上げを実現できることが特徴です。京都・粟田口でも江戸時代から登り窯が築かれ、錦光山窯でも大型の作品や大量の注文品を安定して焼成する基盤となりました。

明治期、錦光山は最大で職人500人規模の工場を構えるまでに発展し、こうした登り窯による生産体制が欧米向け陶磁器の旺盛な需要に応える原動力となったのです。

なお、京薩摩の生産は昭和初期に途絶え、粟田口にあった窯の火も戦前までに完全に消えてしまいました。登り窯の技術なくして、これほどの京薩摩量産は成し得なかったと言えるでしょう。

錦光山の代表的な京薩摩作品5選

ここでは、錦光山が手掛けた京薩摩の中から、特に代表的な作品を5点紹介します。

色絵花文瓶(いろえ かもん びん)

高さ約80cmにも及ぶ大作の花瓶で、純白の地に四季折々の草花が色鮮やかに描かれています。赤や紺、緑などの葉や花弁の一部は浮彫になっており、白磁の上に立体的な陰を生み出すことで気品ある美しさを放ちます。

描かれた草花は葉鶏頭(はげいとう)や木槿(むくげ)、牡丹、菊など多岐にわたり、その色彩の濃淡が白磁の地によく映えて爽やかな気品を醸し出しています。錦光山が白磁の肌に繊細な上絵付で花々を表現した驚くべき一例です。

色絵花鳥文瓶(いろえかちょうもんびん)

高さ60cmほどの花瓶に、林の中を歩む雄雌一対のキジと、そびえ立つ山桜が描かれた逸品です。その桜の幹は朝霧に煙るよう淡く描かれ、草花や雉の細密描写と相まって幻想的な風景を演出しています。

雉の羽毛一枚一枚や足元の草花まで丹念に描かれており、その写実性と夢幻性を兼ね備えた情景は見る者を魅了します。まるで一幅の絵画を見るかのようなこの作品は、錦光山作品の中でも屈指の完成度を誇るものと言えるでしょう。

色絵山水鳥文花瓶(いろえ さんすいちょうもん かびん)

高さ約44cmの花瓶で、湖上を優雅に泳ぐコブ白鳥と、周囲に桜・牡丹・菊・葉鶏頭など四季折々の草花が幻想的に描かれています。

春の桜と秋の菊が同じ画面に配され季節感に欠ける図柄ですが、これは西洋人向けの輸出を強く意識して大胆に構成されたデザインと言えます。

この作品は異国の鑑賞者に新鮮な驚きを与え、京薩摩が“オリエンタル”な美術工芸品として愛好される一因となりました。

絵金彩山水図蓋付箱(えきんさいさんすいずふたつきばこ)

手のひらに乗る程の小さな蓋付箱ながら、その中に錦光山の卓越した絵付け技巧が凝縮されています。蓋の表面には金彩を用いた静謐な筆致の山水画が描かれ、蓋の縁には四季の草花が余すところなくあしらわれています。

さらに、箱の四側面には鶏や鹿、孔雀、鶉といった動物までもが描かれており、数センチの世界に精緻な物語が展開する様は圧巻です。金泥や色絵具の効果も相まって、小品ながら見る者を圧倒する存在感を放つ作品となっています。

色絵金彩山水図蓋付箱(いろえ きんさい さんすいず ふたつきばこ)

上記の蓋付箱と対をなすような精巧な作品で、外装の華麗な山水画に加え内部にまで絵が施されています。

蓋を開けると内箱の底に番(つがい)の鴛鴦(おしどり)が泳ぎ、蓋の裏にも一羽の鴨が描かれています。鴛鴦のはねの細部まで作り込まれた作品はまるで宝石のように美しく輝く逸品です。

また、鴛鴦の絵を囲むように蝶が舞っている姿も精巧に描かれていることが特徴です。こちらの作品はロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館に展示されています。

錦光山の歴史・年表

錦光山の一族の生涯を、年代順に主要な出来事を年表で紹介します。

項目詳細
1645年初代・鍵屋徳右衛門が京都・粟田口にて窯を開く。
1756年三代・喜兵衛が青蓮院門跡の御用を務め「錦光山」の号を拝領。
江戸幕府より御用達窯に任命される。
1868年七代目となる錦光山宗兵衛(鉄蔵)が誕生。
同年、開国に伴い日本の輸出陶磁器ブームが起こり薩摩焼が世界で注目される
1884年六代宗兵衛の死去により宗兵衛が七代目を襲名。
父の代から進めていた京薩摩の輸出事業を本格化させ、工房を拡大。
1893年シカゴ万国博覧会に京薩摩の大作を出品。
西洋での評価は芳しくなく、以後デザイン改良へ研鑽を積む。
1903年第五回内国勧業博覧会(大阪)で錦光山はアール・ヌーヴォー風の意匠を凝らした作品を出品
1904年京都市に陶磁器試験場が設立される。錦光山宗兵衛も設立に協力し、若手陶工の育成や技術開発に寄与。
1927年七代宗兵衛が60歳で死去。
1930年頃八代・誠一郎が跡を継ぐも需要減少により廃業。
錦光山窯はこの頃完全に生産を終了し、約285年にわたる歴史に幕を下ろした。

錦光山が作る京薩摩作品の特徴3選

京薩摩の魅力を支えた錦光山作品には、次の3つの特徴が挙げられます。その3つについて詳しく見ていきましょう。

特徴①:西洋輸出向けの華やかなデザイン

錦光山の京薩摩は、明治期の欧米市場を意識して作られています。金彩をふんだんに使った絵付けや、日本的な風俗画・花鳥画のデザインは『日本美』を体現するものでした。

例えば、春秋の花を一つの場面に同時に描くような大胆な構図も、西洋の鑑賞者には新鮮に映ったことでしょう。

季節感より装飾効果を優先した図柄は異国の目に強い印象を与え、京薩摩が海外で珍重された要因の一つとなりました。そのため、錦光山の京薩摩も西洋輸出向けの華やかなデザインになっていると言えます。

特徴②:輸出陶磁器特有の形状

京薩摩には日本国内の伝統的器形にはない独特のフォルムの作品が多く見られます。

対になる一対の大花瓶は洋館の暖炉の上飾りやランプ台として愛用されました。大振りで存在感のある壺や花瓶など西洋の生活様式に合わせた器形も数多く作られています。

これらの形状は、日本が海外に再び門戸を開いた19世紀という明治期を反映し、西洋の望む陶器と言うことができます。京薩摩の器形そのものが、当時の異文化交流と日本工芸の適応力を物語っており、輸出期特有の形状をしているのです。

特徴③:繊細な成形と上絵付け

錦光山の作品は、素地の成形から上絵付けに至るまで非常に繊細で丁寧に作られています。素地には、細かいひびが入った白色の胎土が用いられ、薄手ながら丈夫に焼き上げられていました。

素地に施される多彩色の精密な絵付けと煌びやかな金彩は、点描の一点や極細の線に至るまですべて筆で描かれています。まさに、超絶技巧と遜色ない技術です。

絢爛豪華な色彩と綿密な描写が融合した京薩摩の陶磁器は、まさに見る者を虜にする芸術作品となっています。

錦光山の作品を見られる美術館

現在、錦光山をはじめとする京薩摩の名品は国内外の美術館に収蔵され、鑑賞することができます。主に次に挙げる美術館で見ることができます。

  • 東京・東京国立博物館
  • 名古屋・横山美術館
  • 京都・清水三年坂美術館
  • 京都・京都国立博物館
  • ロンドン・ヴィクトリア&アルバート博物館
  • パリ・ギメ東洋美術館
  • アメリカ・フィラデルフィア美術館

日本で錦光山の作品が見られるのは東京と京都、名古屋の3か所です。特に、清水三年坂美術館が京薩摩の名品を常設展示しており、明治期の超絶技巧工芸を間近に見る絶好の機会です。

海外にも京薩摩のコレクションは豊富で、ロンドンやパリ、アメリカにも展示されています。なかでも、ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館には錦光山宗兵衛の作品が数点所蔵されています。

銀座真生堂では明治期の作品を取り扱っています

銀座真生堂は、錦光山の京薩摩と同時期の明治の七宝焼を専門に扱うギャラリーです。並河靖之や濤川惣助といった帝室技芸員による作品をはじめとする数々の明治七宝を幅広く取り揃えています。

超絶技巧が光る明治工芸の逸品を現代に紹介する窓口として、美術愛好家やコレクターからも注目される存在です。実際の作品を手に取って鑑賞・購入できる貴重な機会を提供しており、明治期の職人技の奥深さに触れられるスポットとなっています。

また、銀座真生堂では所有している作品を美術館での展覧会などへの貸出など文化活動も行なっております。ご興味のある方は、お気軽にお問い合わせください。

まとめ

錦光山が手掛けた京薩摩は、日本の伝統美と明治期の創意工夫が結晶化した陶芸作品です。歴代の錦光山家は時代の要請に応じて技術とデザインを磨き上げ、世界の人々を魅了する華麗な作品を生み出しました。

白地に金彩・色絵で緻密に描かれた京薩摩の焼物は、その絢爛さと繊細さで「超絶技巧」の名にふさわしく、現代でも私たちを驚嘆させます。明治期に一度途絶えた技術と美は、現在では美術館で大切に保存・公開され、コレクターの間でも人気の高い品物です。

錦光山という名前は、今なお明治工芸を代表する存在として輝き続けており、その魅力は時代と国境を超えて多くの人々の心を捉え続けているのです。

執筆者
銀座真生堂
銀座真生堂
メディア編集部
七宝焼・浮世絵をメインに古美術品から現代アートまで取り扱っております。 どんな作品でも取り扱うのではなく私の目で厳選した美しく、質の高い美術品のみを展示販売しております。 このメディアで、美術品の深みや知識を発信していきます。
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