超絶技巧と呼ばれた工芸品10選を紹介!有名な作家まで紹介
明治期に最盛期を迎えた、超絶技巧が施された工芸品。その技術はとても高く、現代では再現できない優れたものとして語り継がれています。
超絶技巧と呼ばれた工芸品は日本だけでなく、海外でも多くの人気を集め「ジャポニズム」を巻き起こすきっかけとなりました。中には、そんな超絶技巧が施された作品を知りたいという方も少なくないでしょう。
そこで本記事では、超絶技巧と呼ばれた工芸品10選を紹介します。あわせて、超絶技巧品を生み出した有名な作家まで紹介するので、ぜひ参考にしてください。
超絶技巧の工芸品とは
そもそも超絶技巧の工芸品とは、超越した技術が施された工芸品のことです。超絶技巧が施された作品は、人が作ったとは思えないほどの精緻な装飾が施されており、見る人を魅了します。
また、超絶技巧が施されているのは、特に明治時代の七宝焼や金工、漆工などの工芸品です。明治時代が超絶技巧の最盛期となったのは、明治維新後に開催された万国博覧会などで職人が技術の高さを競うようになったからでしょう。
こうして高い技術を持つ職人が増えていったことで、七宝焼や金工、漆工などの名手が生まれていったのです。
超絶技巧と呼ばれた工芸品10選
いよいよ、超絶技巧と呼ばれる工芸品を紹介していきます。今回紹介するのは、下記の10作品です。
- 蝶図 蓋壺(七宝焼)
- 桔梗に蝶図 花瓶(七宝焼)
- 菖蒲図 香炉(七宝焼)
- 菊御紋付桜模様七宝花瓶(七宝焼)
- 吉野山蒔絵小箪笥(漆工・蒔絵)
- 藤棚蒔絵書見台(漆工・蒔絵)
- 紫檀塗鳥兜に紅葉蒔絵琴柱箱(漆工・蒔絵)
- 雪中南天樹鵯図額(金工)
- 還城楽図額(金工)
- 色絵金彩象形香炉(陶磁器・薩摩焼)
それでは、下記で詳しく見ていきましょう。
蝶図 蓋壺(七宝焼)
1つ目の作品は、「蝶図 蓋壺」です。並河靖之によって作られた、七宝焼の作品になります。
並河靖之は超絶技巧を施す七宝焼の名工として有名で、明治期の七宝家を代表する1人です。この作品は、並河靖之の精緻な筆遣いがうかがえるもので、銀線で描かれた蝶の羽模様は一際美しく感じられます。
また、彩りも豊かです。下地が黒色であることにより、釉薬で現れる彩りや銀線の華やかさが増して見えます。上品さも感じられ、見る人の心をつかむ作品と言えるでしょう。
桔梗に蝶図 花瓶(七宝焼)
2つ目の作品は、「桔梗に蝶図 花瓶」です。この作品も、七宝焼の名手「並河靖之」によって作られたものですが、先ほどの作品とはまた違った味が感じられるでしょう。
これは並河靖之の晩年期の作品なのですが、晩年期の作品は余白が目立つものが多い傾向があり、この作品もそのひとつなのです。また、花瓶に描かれている小さな蝶がここまで美しく見えるのは、並河靖之ならではの緻密さによるものでしょう。
この作品は、絵柄が精緻であるからこそ、余白の良さが出るような、シンプルながらも優れたものと言えます。
菖蒲図 香炉(七宝焼)
3つ目の作品は、「菖蒲図 香炉」です。これも並河靖之による七宝焼作品で、線香を焚くために使用される香炉に超絶技巧が施されています。
青い背景に静かに咲く菖蒲がとても美しく、他の作品とも同じように綺麗な植線が引かれているのが魅力的です。さらに詳細に見ていくと、青い背景の部分が角ばっているのが分かるでしょう。
これはこの作品が面取形になっているからなのですが、面取形に綺麗な植線を引くのはとても難しい技術です。これほどまでに綺麗な植線が引けているのは、並河靖之が持つ技術力の高さがあるからこそだと言えます。
菊御紋付桜模様七宝花瓶(七宝焼)
4つ目の作品は、「菊御紋付桜模様七宝花瓶」です。この作品は、明治天皇皇后両陛下より、13代鍋島直泰の夫人である紀久子の母がお年玉として贈られた花瓶だと言われています。
堂々と、且つ精緻に描かれた桜樹がとても美しい七宝焼です。また、花瓶は肩が張ったような形をしていますが、これは宮内省型と呼ばれています。
七宝焼の専門店である安藤七宝店で作られたものだとされており、格式高い上品な作品です。
なお、次の記事では七宝焼の作品を多く紹介しているので、あわせてご覧ください。
吉野山蒔絵小箪笥(漆工・蒔絵)
5つ目の作品は、「吉野山蒔絵小箪笥」です。これは金蒔銘「梶川作 英(朱漆壺印)」による作品で、木製の下地に漆塗が施されています。
この小さな箪笥には4段の引き出しと観音開きの収納箇所があり、扉の内部にさらに4段の引き出しがある構造です。作品の表面には、高く盛り上がって見える蒔絵「高蒔絵」や、蒔絵に薄い金の欠片をはめ込む「金金貝」などがあしらわれています。
黒と金で統一した見た目は、それだけで荘厳さや豪華さがありますが、金で描かれた流水や桜樹がより一層格式高さを感じさせます。繊細な筆遣いで描かれた木の幹や花の造形から、優れた超絶技巧の作品だと言えるでしょう。
藤棚蒔絵書見台(漆工・蒔絵)
6つ目の作品は、「藤棚蒔絵書見台」です。この作品も木製の下地に漆塗が施されており、書物や譜面を乗せる台「書見台」として作られました。
作品の表面には、蒔絵が施された部分が高く盛り上がっているように見える「薄肉高蒔絵」という技法が使われています。また、ところどころ透かしている部分があり、珍しいデザインです。
さらに、緻密に描かれた金の藤棚がとても美しく、技術力の高さと上品さが感じられます。
紫檀塗鳥兜に紅葉蒔絵琴柱箱(漆工・蒔絵)
7つ目の作品は、「紫檀塗鳥兜に紅葉蒔絵琴柱箱」です。木製の漆塗り作品で、木製のあたたかみがありつつ、箱を縁どる金が荘厳さを感じさせます。
また、作品には蒔絵が施されており、もみじが紅葉している部分は朱塗りであらわされています。ただ朱塗りされているだけではなく、緻密に点描されているため、より自然な葉の色の移り変わりが感じられるのです。
さらに、蓋の部分に描かれている兜ともみじは、源氏物語の紅葉賀巻をモチーフに描かれていると言われています。蓋の裏面には籠から逃げる鳥が描かれていますが、これは若紫巻をあらわしているのだそうです。
なお、次の記事では漆器や蒔絵の作品を多く紹介しているので、あわせてご覧ください。
雪中南天樹鵯図額(金工)
8つ目の作品は、「雪中南天樹鵯図額」です。これは、金工の名手である正阿弥勝義によって作られています。
下地は、金と銀を合わせて作られた「四分一」です。そこに描かれた、雪の積もった南天の木の実やその木の実をくわえようとする鵯は、高く盛り上がっているように見えます。
これは、地の部分を深く彫るなどして文様を浮き上がらせる「高肉彫り」があしらわれているからです。さらに、この作品には異なる素材をはめ込む技法「象嵌」も使われています。
精緻に彫られたこの作品は、木の実から振り落とされる雪まで写実に再現されており、優れた技術が施された作品と言えるでしょう。
還城楽図額(金工)
9つ目の作品は、「還城楽図額」です。明治時代の代表的な彫金家の1人である海野勝珉によって作られました。
この作品は、伝統的な舞踊劇である「舞楽」を楽しんでいる様子を表していると言われています。作品に施されている技術は高肉彫りや象嵌で、異なる金属を組み合わせて作ることでリアルな質感が表現されています。
海野勝珉は、金属ではない着衣などの素材を金属で表すことが得意で、その質感には驚くほどのリアルさがあります。「還城楽図額」にも海野勝珉が得意とするリアルさがあらわれており、技術の高さがうかがえるでしょう。
なお、次の記事では金工について詳しく紹介しているので、あわせてご覧ください。
色絵金彩象形香炉(陶磁器・薩摩焼)
10個目の作品は、「色絵金彩象形香炉」です。陶芸家である東郷寿勝によって作られています。
欧米でも人気があった薩摩焼で作られており、白地に金色が映える作品です。象の背に楼閣が乗ったデザインで、華やかさやきらびやかさが感じられます。
特に象の背に乗っている布の柄や楼閣の造形には、精緻な装飾や技法が施されていることが一目で分かります。これほどまでに凝った造形や緻密な装飾は、まさに超絶技巧が施された工芸品だと言えるでしょう。
なお、次の記事では薩摩焼について詳しく紹介しているので、あわせてご覧ください。
超絶技巧の工芸品における有名作家
続いて、超絶技巧の工芸品を作ることで有名な作家を紹介していきます。今回紹介する有名作家は、下記の7名です。
- 並河靖之
- 濤川惣助
- 林小伝治
- 柴田是真
- 正阿弥勝義
- 加納夏雄
- 板谷波山
それでは、以下でより具体的に解説していきます。どの作家もとても優れた技術を持っているので、興味がある作家を見つけたら作品を調べてみるのもおすすめです。
並河靖之
1人目は、並河靖之です。記事の前半で紹介している並河靖之の作品を見てもわかるように、並河靖之は繊細な植線などが魅力的な七宝焼の名工と言えます。
しかし、並河靖之の魅力はそれだけではありません。下記の記事では、並河靖之の魅力やこの記事では紹介しきれなかった作品、時期ごとの作品の変化まで詳しく解説しています。
「並河靖之の魅力や作品の特徴をもっと知りたい」「どんな作品の変化があったのか知りたい」という方は必見です。
濤川惣助
2人目は、濤川惣助です。濤川惣助は並河靖之と名字の読みが同じで、同時期に七宝焼の名工として評価されていました。
そのため、濤川惣助と並河靖之は「二人のナミカワ」と言われていたそうです。濤川惣助の作品にはオリジナルの技法が使われており、筆を使ったような柔らかな表現が得意でした。
下記の記事では、濤川惣助とはどんな人物であったのかや、濤川惣助の魅力、代表作などを詳しく紹介しています。並河靖之と同じくして七宝焼の名工になった濤川惣助の作品を知りたい方は、ぜひご覧ください。
林小伝治
3人目は、林小伝治です。林小伝治は、並河靖之や濤川惣助に並ぶ七宝作家で、外国人へ七宝焼を売った初めての人物だとされています。
林小伝治の作品は複数の万博などで多くの賞を受賞しており、精緻に描かれた文様が印象的な優れた作品ばかりです。下記の記事では、林小伝治の七宝作家としての活躍や、作品に仕込まれた優れた技術、華々しい経歴などを紹介しています。
林小伝治の優れた七宝作品を見たい方は必見です。
柴田是真
4人目は、柴田是真です。柴田是真は多才な人物で、漆芸家であり、蒔絵師・絵師でもあります。
漆芸家としては、紫檀という木の木目を漆で描く塗り方「紫檀塗」や、漆で青銅の質感を出す塗り方「青銅塗」などが得意です。自身で描いた生き生きとした下絵に施された漆塗は、多くの人から高い評価を受けました。
下記の記事では、柴田是真とはどんな人物なのかやその魅力を紹介しています。多才な柴田是真に興味がある方は、ぜひご覧ください。
正阿弥勝義
5人目は、正阿弥勝義です。正阿弥勝義は、金工家として明治時代に高い評価を受けました。
津山藩に使える金工一家として生まれ、40歳ごろまでは刀装具の製作に注力していました。その後は、廃刀令をきっかけに香炉や花瓶、美術工芸品などを製作するようになります。
正阿弥勝義の作品で優れている点は、金属で表されるリアルな造形や豊かな彩り、緻密な彫金技術です。高い技術があるため国内外を問わず活躍し、博覧会などでも常に高い評価を受けていました。
その技術力の高さは、まさに超絶技巧だと言えます。
加納夏雄
6人目は、加納夏雄です。加納夏雄は金工師で、明治天皇の御刀金具に関する彫刻を依頼されるほど高い技術を持っていました。
また、加納夏雄は人物や花などを写実に表現することが得意でした。さらに、金属で色を出す「色絵象嵌」や、文様を高く見せる「高彫」も得意で、政府から新貨幣の製作を依頼されたこともあります。
新貨幣の製作では、同じく製作を依頼されたイギリス人技師が加納の技術力の高さに驚き、辞退したという逸話もあります。これほど加納夏雄の超絶技巧は優れており、一目置かれていた存在なのです。
板谷波山
7人目は、板谷波山です。板谷波山は陶芸家で、職人としてしか見られていなかった陶芸家の地位を芸術家の地位まで押し上げた人物だと言われています。
また、板谷波山は独学で陶芸を学んでいたため、独学ならではのユニークな作品が多い印象です。さらに、陶芸に対する意識が高く、自分が納得いく作品以外は世に出しませんでした。
そのため、世に出ている作品数は一般的な陶芸家より少ないと言われていますが、だからこそ、高い技術の作品が多いのでしょう。板谷波山が超絶技巧の使い手だと言われているのは、このような意識の高さから来ているのかもしれません。
銀座真生堂では超絶技巧の工芸品を取り扱っております
銀座真生堂では、超絶技法があしらわれた明治工芸品である「七宝焼」を取り扱っております。七宝焼は美しい模様や色彩が表現された、現代の技術では再現できないとされる超絶技巧品です。
銀座真生堂は、唯一の明治期の七宝焼専門店として常時、並河靖之、濤川惣助など名工の作品を保有できています。美術館などでガラス越しにしか見ることが出来なかった並河靖之、濤川惣助の作品を実際にお手に取って鑑賞、ご購入出来る唯一のギャラリーです。
また、銀座真生堂では所有している作品を美術館での展覧会などへ貸出すなど文化活動も行なっております。ご興味のある方は、気軽にお問い合わせください。
まとめ
本記事では、超絶技巧の工芸品とは何かや、超絶技巧が施された明治期の工芸品、作家を紹介していきました。超絶技法が施された作品はとても精緻で美しく、誰もが一目で技術の高さが分かるほど優れています。
本記事で紹介した作品以外でも超絶技巧が施された作品はたくさんありますので、美術館などに足を運んでみるのもおすすめです。
また、以下の記事では明治工芸について詳しく解説しているため、あわせて参考にしてください。本記事があなたのお役に立てることを願っております。