提物とは?種類や根付・明治時代の作品も紹介
日本を代表する工芸品のひとつである「提物」。提物には、さまざまな種類のものがあり、種類ごとに魅力的な工芸品がそろっています。
しかし、「提物」と言われてもどんな物なのか、あまりイメージできないという方も少なくないでしょう。
- 提物の歴史を知りたい!
- 提物にはどんな魅力があるのか知りたい!
提物に興味がある方の中には、上記のようなことを知りたいと感じている方もいるはず。
そこで本記事では、提物について紹介します。あわせて、提物の魅力や歴史、種類も紹介するので、あわせて参考にしてください。
提物とは
提物は、「さげもの」と読みます。印籠や根付、春画、緒締、矢立、煙管筒、巾着などさまざまな種類があり、提物とはこれらの総称のことです。また、すべて腰から下げて持ち歩くことができます。
提物は単純に携帯しやすいという便利さがありますが、小さな武器を仕込んで防犯用として使うこともあったそうです。このようにさまざまな用途があり、その上、工芸品としても評価されています。
工芸品として評価されている理由は、緻密な装飾が施されているなど、技術が詰め込まれた作品が多くあるからです。この記事でも実際に提物の作品を紹介していきますので、ぜひ作品の美しさに触れてください。
提物の魅力
提物の魅力は、なんといっても装飾の美しさです。どの提物も実用品として優れているのですが、それ以上に装飾が素晴らしく、工芸品としての価値が高いのです。
提物に施されている装飾や技法はさまざまで、豪華なものからシンプルで上品なものまであります。超絶技巧と呼ばれる精緻な装飾が施されたものもあり、目をみはるような美しさを発見することもできるでしょう。
また、使う素材によっても提物の印象が大きく変わるため、表現方法が幅広いという点も魅力のひとつと言えるかもしれません。
提物の歴史
今となっては提物にはさまざまな種類がありますが、その中でも最初に生まれたのは巾着だと言われています。巾着にお金や薬を入れ、着物の帯に下げて持ち歩くようになり、さまざまな提物が生まれていきました。
その後生まれた提物のひとつである煙草入は、江戸時代に煙管での喫煙が流行り、出先でも喫煙を楽しむために作られました。さらに、江戸時代に大切にされていた粋や洒落を楽しむため、煙草入に装飾が施されるようになります。
こうして、さまざまな提物や工芸品が生まれていったのです。
提物の種類
ここでは、提物の種類について紹介していきます。ここで紹介するのは、下記の代表的な6種類の提物についてです。
- 根付
- 印籠
- 緒締
- 矢立
- 煙管筒
- 巾着
いくつかのアイテムは、時代劇などで聞いたことのある方もいるでしょう。下記にて、具体的に解説していきます。
根付
根付とは、印籠や巾着などの提物と紐でつながっているパーツのことです。印籠や巾着などは、そのままでは帯に引っ掛けて持ち歩くことができません。
そこで根付をつけることで、腰にさげても根付が腰に引っ掛かる役割を担ってくれ、問題なく腰から下げられるようになります。つまり、ストッパーのような役割があるのです。
また、根付にはさまざまな形のものや装飾があり、装飾品のひとつとしても十分に楽しむことができます。ただの滑り止めではなく、ほかの提物作品も根付がついていることで工芸品としての美しさが増すのです。
印籠
印籠とは、主に武士の間で薬入れとして使われていた小さな容器のことです。優れた技術を用いた美しい装飾が施されているものもあったため、江戸時代にはおしゃれのひとつとしても楽しまれていました。
下記の記事では、より具体的に、印籠とは何かや印籠の歴史、印籠の価値について解説しています。「印籠についてもっと詳しく知りたい」「印籠の魅力を知りたい」という方はぜひご覧ください。
緒締
緒締とは、印籠や巾着の紐を締めるための小さなパーツのことです。緒締があることで、印籠はばらばらにならずに持ち歩けたり、巾着は口を締めて使用したりすることができます。
緒締も、いわゆるストッパーのような役割を担っていると言って良いでしょう。このように実用性の高い緒締ですが、実は装飾品としても優れています。
シンプルな丸いビーズのような形をしたものから、根付のように動物を模したものまで、形状はさまざまです。ほかの提物と組み合わせることで、ほかの提物の魅力を引き立たせることもできます。
矢立
矢立とは、腰から下げて携帯する筆記具のことです。墨がしみ込んだ綿を入れる「墨壺」と、筆を入れた「筆筒」が一体になっています。
矢立は古くから使われていましたが、江戸時代になり、持ち運びやすい形態になっていきました。また、本来の筆記具として使われるだけでなく、筆筒に針などを仕込み、身を守る小さな武器としても携帯されていたようです。
ほかの提物と同様に、美しい装飾を施された矢立も多く存在しますが、比較的シンプルな装いが多いと言えるかもしれません。
煙管筒
煙管筒は、「きせるづつ」と読み、文字通り煙管を入れる筒です。煙管とは、葉煙草を刻んだものを詰め、吸うことで喫煙できる器具のことを言います。
煙管筒は単体でも使われますが、煙草入に付属していることもあります。煙草入とは、煙管で使う刻んだ葉煙草を入れる容器のことです。
煙草入には、木製のものや布製のもの、革製のものなどさまざまなものがあります。煙管筒も煙草入も装飾が施されていたり、柄がついていたりするものもあるため、伝統工芸品として魅力的です。
巾着
巾着とは、日常使いすることもある布製の入れ物のことで、口の部分は紐や緒締で締めます。提物としての巾着は、腰からぶら下げて持ち歩くという用途です。
巾着の中には、お金やお守りなど、さまざまなものが入れられていました。江戸時代になると、高級な布で作られたものや、革で作られたものも出てきます。
このように見た目にこだわった巾着も販売されていたため、巾着も工芸品として大切に扱われています。
明治時代の提物作品
明治時代の提物の作品を、提物の種類ごとに紹介していきます。それぞれどんな形状なのか、どんな装飾が施されているのか、目で見て楽しんでみましょう。
また、材料や施されている技法が変わるだけでも、まったく印象の異なる作品に変化します。その点も注目していきながら見ていくのがおすすめです。
根付の作品
ここでは、根付の作品に多い、動物を模した根付作品を紹介します。まずは、「川獺牙彫根付」です。
この根付は、獲物をくわえたかわうそが模されています。象の牙などを使って作られる「象牙製」です。象牙のなめらかさで動物のツヤが表されているように見えます。
2つ目の作品は、「葡萄栗鼠牙彫根付」です。
この作品も象牙製で、葡萄にかじりついているような鼠が模されています。繊細な技術で本物に近い毛並みが表現されており、葡萄もたっぷりと熟した実が見えるようです。
鼠が小さな体で果実を食べようとしているのにも、可愛らしさを感じます。
最後は、「狸腹鼓木彫根付」です。
この根付は、線刻銘「一旦夫」によって作られたもので、大きなお腹を叩いている狸を模したものです。木製のため、木のあたたかさも感じられます。
また、この作品は足の裏やお腹の裏までしっかりと彫られているため、隅々まで造形を楽しむこともできるでしょう。
印籠の作品
次に、印籠の作品を紹介していきます。まずは、「能楽蒔絵印籠」という作品です。
この印籠には能楽が描かれているのですが、能楽が描かれている部分がぷっくりとしているのが分かります。これは、文様が描かれている部分を肉上げした上で蒔絵をする「金薄肉高蒔絵」という技法などが使われているためです。
きらびやかな装飾と能楽の絵柄が上品にマッチしている作品と言えます。
2つ目の作品は、「色絵雪松文印籠 「乾也」銹絵銘」です。
陶工としても活躍した三浦乾也の作品で、雪のような白い背景に松が描かれています。一目見ただけでも美しいですが、詳細に調べると見えてくる松の1本1本が繊細で美しい作品です。
この作品は陶磁器で作られているのですが、三浦乾也の陶工としての技術の高さがうかがえます。緒締や根付も同じ文様で統一されているところも魅力的です。
煙管筒の作品
続いて、煙管筒の作品を紹介していきます。ここで紹介するものは、すべて池田泰真のものです。
池田泰真とは、幕末や明治時代を経て絶大な人気を誇った蒔絵師「柴田是真」の弟子であり、漆芸家として活躍していました。今回紹介する池田泰真による1つ目の作品は、「池田泰真葛図螺鈿蒔絵煙管筒」です。
この作品には、金の粉「蒔絵紛」を使って装飾する技法「蒔絵」や、貝殻を装飾に用いた技法「螺鈿」が施されています。特に貝殻で装飾された葉の文様からは、豪華さを感じます。
2つ目の作品は、「若松鶴蒔絵煙管筒」です。
この作品は、象牙で作られた珍しい煙管筒で、盛り上がった蒔絵を施す技法「高蒔絵」が使われています。高蒔絵が施されたのびやかな鶴は、縦長の煙管筒にちょうど良く収まるサイズです。
鶴の羽の部分は一部黒漆があしらわれており、程よく上品なインパクトを残しています。
緒締の作品
次に、緒締の作品を紹介します。緒締の作品は、とてもシンプルな珠の形をしたものから器物や人を模したものまで、幅広く存在しています。
人を模したものだと、「阿福面牙彫緒締」という作品が例に挙げられるでしょう。
この作品は、線刻銘「寿玉」によって作られたもので、小さな緒締に繊細なタッチでシンプルな顔が描かれています。また、器物が描かれた緒締の作品だと、「草籠牙彫緒締」が例に挙げられるでしょう。
この作品は、作品名の通り草籠が彫られているもので、小さいながらも籠の質感が伝わってくる緻密さがあります。このように、1~2センチ程度の緒締でも、さまざまな装飾が可能なのです。
矢立の作品
最後に、矢立の作品を紹介していきます。今回矢立の作品として紹介するのは、「矢立鉄砲」という作品です。
鉄砲の形をした矢立になっており、銅で作られています。撃鉄の部分が墨壺となっており、銃身が筆を入れる部分です。
一目見ただけでは本物の鉄砲と間違えてしまいそうなくらい、しっかりとした装飾になっています。趣向を凝らした面白い矢立の作品です。
銀座真生堂では明治工芸品を取り扱っております
銀座真生堂では、魅力的な提物作品と同じ明治工芸品である「七宝焼」を取り扱っております。七宝焼は美しい模様や色彩が表現された、現代の技術では再現できないとされる超絶技巧品です。
銀座真生堂は、唯一の明治期の七宝焼専門店として常時、並河靖之、濤川惣助など名工の作品を保有できています。美術館などでガラス越しにしか見ることが出来なかった並河靖之、濤川惣助の作品を実際にお手に取って鑑賞、ご購入出来る唯一のギャラリーです。
また、銀座真生堂では所有している作品を美術館での展覧会などへ貸出すなど文化活動も行なっております。ご興味のある方は、気軽にお問い合わせください。
まとめ
本記事では、提物とは何かや、提物の歴史、その魅力について紹介していきました。提物にはさまざまな種類があり、装飾の幅も広く、工芸品としての魅力が詰まっています。
本記事で紹介した作品以外でも魅力的な印籠作品はたくさんありますので、美術館などに足を運んでみるのもおすすめです。
また、以下の記事では明治工芸について詳しく解説しているため、あわせて参考にしてください。本記事があなたのお役に立てることを願っております。