江戸時代の印籠作品8選を紹介!作品の特徴や有名作家も紹介
江戸時代のおしゃれとして親しまれていた「印籠」。印籠にはさまざまな作品があり、作品によって受ける印象が全く違います。
ひたすらに豪華で美しい作品もあれば、落ち着いた上品な作品もあるのです。このような幅広い印象を楽しめるのも、印籠の魅力と言えるでしょう。中には、印籠の魅力を知り、作品を知りたいという方もいるはず。
そこで本記事では、江戸時代の印籠作家や印籠作品を紹介します。あわせて、技法についても簡単に解説していますので、初めて印籠作品に触れる方も気軽に楽しみながらご覧ください。
なお、次の記事では印籠について詳しく解説しているので、あわせて参考にしてください。
印籠とは?どんな用途や歴史があるのか
まずは、そもそも印籠とはどんなものなのかを知っていきましょう。印籠とは、主に武士の間で薬入れとして使われていた小さな容器のことです。
優れた技術を用いた美しい装飾が施されているものもあったため、江戸時代にはおしゃれのひとつとしても楽しまれていました。
江戸時代の印籠作品に扱われた文様
江戸時代の印籠作品に扱われていた文様は「江戸時代における印籠のデザインについて」によると、実に295種類にも及びます。その中でも最も多かった文様は、全体の31.7%を占める器物・建物文でした。
器物・建物文とは、家具や建築物などの文様のことです。器物・建物文の次に多かったものは、動物文で20.9%でした。植物文も20.4%と、ほぼ動物文と横並びで上位に入っています。
動物文には熊などの動物だけでなく、昆虫や魚の文様も含まれます。また、植物文も花などの植物だけでなく、海藻類も含んでいるようです。
このほかにも、貴族などの人物文や、山などの風景を表した自然文などもあります。このように、江戸時代の印籠作品にはさまざまな文様が扱われているため、多種多様で魅力的な作品を楽しめます。
江戸時代の印籠作品に関わった有名蒔絵師たち
続いて、江戸時代の印籠作品に関わった有名蒔絵師たちを紹介していきます。「江戸時代における印籠のデザインについて」によると、江戸時代の印籠作品に関わった蒔絵師たちは34名も存在しているのです。
下記の表には、江戸時代に活躍した34名の蒔絵師の名前と、それぞれが製作した印籠の作品数がまとめられています。
蒔絵師たちが作った印籠は、きらびやかでとても綺麗な見た目をしています。今回は、この中でも特に作品数が多く、有名な4名の蒔絵作家について紹介していきますので、参考にしてください。
塩見政誠(しおみ せいせい)
1人目は、塩見政誠です。塩見政誠は通称「小兵衛」と呼ばれており、江戸時代中期に印籠作品の蒔絵師として活躍しました。
蒔絵の中でも、工程の最後に木炭で作品を研ぐ手法「研出蒔絵」の技術が評価されています。「研出蒔絵」を指すときに「塩見蒔絵」と言われることがあったほど、塩見政誠は研出蒔絵の名工でした。
また、蒔絵は豪華な装飾のものが多く見られますが、塩見政誠の蒔絵は上品で落ち着いているものが多いようです。さらに、緻密に描かれた繊細な描写も塩見政誠の魅力のひとつです。
記事の後半では、塩見政誠の作品を紹介しているので、緻密な描写のクオリティの高さをぜひご覧ください。
古満(こま)家
2人目は、古満家です。古満家は何代にもわたる蒔絵師の家系で、初代である古満休意(こま きゅうい)が江戸時代の初期に徳川家へ仕えたことから始まりました。
初代から12代まで、幕府の蒔絵師として仕え続けています。また、古満家の中でも特に江戸時代の印籠作品が多いのは、古満巨柳です。
古満巨柳(こま こりゅう)は江戸時代の中期に活躍した蒔絵師で、多くの優れた印籠作品を世に送り出してきました。しかし、印籠作品だけではなく、箪笥や文房具などの日常的に使われる調度品の作品も多くあるようです。
さらに、古満巨柳ほどではありませんが、ほかの代にも印籠作品に携わっている人物がいます。それは、3代目の古満休伯(こま きゅうはく)や4代目の古満久蔵安匡(こま きゅうぞうやすただ)、5代目の古満休伯、6代目の古満勘助(こま かんすけ)です。
特に、5代目の古満休伯は印籠師としての評価が高く、工芸品作家の名鑑である「装剣奇賞」にも名前が載っています。古満巨柳の作品は記事の後半で紹介していますので、ぜひご一読ください。
幸阿弥(こうあみ)家
3人目は、幸阿弥家です。幸阿弥家も古満家と同様に何代も続く蒔絵師の家系で、幸阿弥家の初代は美濃の名族の長男だと言われています。
また、古満家は徳川家に仕えたのに対し、幸阿弥家は足利家や織田家、豊臣家、徳川家などさまざまな家に仕えていました。幸阿弥家は徳川家の調度製作に関わり続けたことで、蒔絵師として確固たる地位を確立しています。
幸阿弥家の中でも、11代の長房(ちょうぼう)は将軍家に捧げる印籠を製作しており、14代の長孝(ちょうこう)は印籠の名工だとも言われていました。特に長孝は将軍家が扱う印籠を製作する印籠師と呼ばれており、印籠製作において高い評価を得ていたことが分かります。
記事の後半では、長孝の作品である「鯉鮎蒔絵印籠」も紹介していますので、参考にしてみましょう。
飯塚桃葉(いいづか とうよう)(初代)
4人目は、飯塚桃葉(初代)です。飯塚桃葉は江戸時代の中期に活躍した蒔絵師で、徳島藩主蜂須賀家に仕えていました。
古満休伯安巨と同様に、「装剣奇賞」に名前が載っており、優れた印籠師としても知られています。名工であったためか、俸給は十五人扶持という格別な待遇を受けていました。
飯塚桃葉の作品は、主に前藩主重喜のために作られていたようです。その作品は印籠のみならず、武具や茶道具、調度品など幅広いものが対象でした。
記事の後半では、飯塚桃葉の作品である「紅葉蒔絵印籠 銘 桃葉(花押)」も紹介していますので、ぜひご覧ください。
江戸時代の印籠作品8選
続いて、江戸時代に製作された代表的な印籠作品を8つ紹介していきます。すでにご紹介した有名蒔絵師の作品をピックアップしていますので、作家の情報と照らし合わせてご覧ください。
印籠だけでなく、印籠紐や根付、緒締との一体感にも注目してみましょう。
漁夫蒔絵印籠
作品名 | 漁夫蒔絵印籠 |
作者 | 塩見政誠 |
サイズ | 高さ:77mm 幅:68mm 厚さ:25mm |
1つ目の作品は、「漁夫蒔絵印籠」です。「漁夫蒔絵印籠」は研出蒔絵の名手である塩見政誠の作品のひとつで、江戸時代の中期に作られました。
とても繊細で高度な蒔絵が施されており、手で魚をつかみ取ったり、網で魚を捕まえようとする漁夫の絵が描かれています。繊細な技術が施されているからこそ、川の流れや漁夫の躍動感などを感じることができるのです。
特に漁夫の装いに施された色漆や細かく描かれた着衣には、誰もが目を惹かれるでしょう。
蝶蒔絵印籠
作品名 | 蝶蒔絵印籠 |
作者 | 塩見政誠 |
サイズ | 高さ:71mm 幅:57mm 厚さ:23mm |
2つ目の作品は、「蝶蒔絵印籠」です。こちらも塩見政誠の作品で、作品の中でも晩年の名作であったと言われています。
模様が盛り上がって見える「高蒔絵」という技法が使われており、青貝が使われている部分には神秘的な輝きを感じるでしょう。金色の蝶が羽ばたいている様子もとても魅力的です。
印籠の先についている根付にも、小さな蝶が描かれています。印籠の紐を締めている「緒締」もシンプルな珊瑚珠が使われていて、印籠を引き立たせているように見えます。
印籠単体だけでなく、印籠とつながったパーツとの統一感も魅力的な作品です。
鯉鮎蒔絵印籠
作品名 | 鯉鮎蒔絵印籠 |
作者 | 幸阿弥長孝 |
サイズ | 高さ:76mm 幅:54mm 厚さ:21mm |
3つ目の作品は、「鯉鮎蒔絵印籠」です。「鯉鮎蒔絵印籠」は、印籠の名工と称され、将軍家用の印籠師としても活躍していた、幸阿弥長孝によって作られました。
この作品は徳川家のために作られたものだと言われており、幸阿弥長孝の印籠作品の中でも希少な現存品です。この印籠作品で特に目を引くのは、大きな魚の絵でしょう。
表面には大きな鯉が描かれており、裏面には5匹の鮎が描かれています。魚の周りには藻やゆらめく水の様子が描かれており、優雅で上品な印象です。
また、技法としては、模様が盛り上がって見える「高蒔絵」と研出蒔絵が併用された「肉合研出蒔絵」が使われています。肉合研出蒔絵は技法の中でも特に難易度の高いものですが、それを使いこなす名工の技術の高さがよく分かる作品です。
三猿蒔絵印籠
作品名 | 三猿蒔絵印籠 |
作者 | 塩見政誠 |
サイズ | 高さ:82mm 幅:64mm |
4つ目の作品は、「三猿蒔絵印籠」です。これは塩見政誠の作品で「見ざる聞かざる言わざる」で有名な三猿を含め、表裏合わせて7匹の猿が描かれています。
なぜ7匹の猿なのかというと、平安時代の僧である「良源」が詠んだ「七猿歌」に登場する猿が描かれているためです。繊細な蒔絵で描かれた7匹の猿は、落ち着いた上品な印象を受けます。
印籠と根付や緒締、印籠紐まで色味がマッチしており、一体感のある美しい作品です。
紅葉蒔絵印籠 銘 桃葉(花押)
作品名 | 紅葉蒔絵印籠 銘 桃葉(花押) |
作者 | 飯塚桃葉(初代) |
サイズ | 高さ:53mm 幅:49mm 厚さ:19mm |
5つ目の作品は、「紅葉蒔絵印籠 銘 桃葉(花押)」です。印籠の名工である飯塚桃葉(初代)によって作られました。
黒地に浮かび上がる紅葉がとても鮮やかで、赤く表現されたもみじが美しく映ります。使われている技法は研出蒔絵で、繊細な装飾が施されているのが分かるでしょう。
また、この作品は飯塚桃葉が仕えていた徳島藩主のものではなく、小大名レベルのオーダー品だと見られています。印籠の中身には朱漆が塗られており、黒塗の外観とのコントラストが美しく感じられそうです。
菊撫子蒔絵印籠
作者 | 松立斎達栄 |
サイズ | 高さ:82mm 幅:55mm 厚さ:23mm |
6つ目の作品は、松立斎達栄によって江戸時代に作られた木製の印籠です。松立斎達栄は仙台藩に仕えていた蒔絵師で、とても緻密な蒔絵が施されています。
円形の中に描かれた菊や煌びやかな蒔絵は、美しさだけでなく可愛らしさも感じさせます。印籠と根付をつなぐ印籠紐は紺色をしており、きらびやかな装飾の印籠を落ち着かせるような印象も受けるでしょう。
雪中雁蒔絵印籠
作品名 | 雪中雁蒔絵印籠 |
作者 | 古満巨柳 |
サイズ | 高さ:70mm 幅:66mm 厚さ:16mm |
7つ目の作品は、「雪中雁蒔絵印籠」です。この印籠は、徳川家に仕えていた古満家の古満巨柳によって作られました。
他の作品よりも横幅が広く、正方形に近い形をしています。黒地に金一色で描かれた雁が飛び立つ様子がとても美しく、目を引く作品です。
さらに、何より優れているのが、さまざま大きさの梨子地粉などを使って表現された雪だと言えます。形がそろっていないからこそ、自然な雪としての完成度が高く、作品に馴染んでいるのでしょう。
印籠の内部は朱漆が塗られており、内部まで上品さを感じる装いになっています。
馬蒔絵螺鈿印籠
作品名 | 馬蒔絵螺鈿印籠 |
作者 | 飯塚桃葉(初代) |
サイズ | 高さ:53mm 幅:49mm 厚さ:19mm |
8つ目の作品は、「馬蒔絵螺鈿印籠」です。底裏金蒔銘「英」によって作られた作品で、最大の特徴は、誰もが目を引かれる豪華さでしょう。
この作品には、金薄肉高蒔絵や、夜光貝などの貝を用いて装飾される「螺鈿」といった技法が使われています。特に貝で形どられ、銀色に輝く馬には、凛々しさとある種の特別感を覚えるでしょう。
また、銀色の馬と金色の馬のコントラストが美しいこの印籠は、獣医師である増井光子さんによって寄贈されました。
銀座真生堂では明治工芸品を取り扱っております
銀座真生堂では、魅力的な印籠作品と同じ明治工芸品である「七宝焼」を取り扱っております。七宝焼は美しい模様や色彩が表現された、現代の技術では再現できないとされる超絶技巧品です。
銀座真生堂は、唯一の明治期の七宝焼専門店として常時、並河靖之、濤川惣助など名工の作品を保有できています。美術館などでガラス越しにしか見ることが出来なかった並河靖之、濤川惣助の作品を実際にお手に取って鑑賞、ご購入出来る唯一のギャラリーです。
また、銀座真生堂では所有している作品を美術館での展覧会などへ貸出すなど文化活動も行なっております。ご興味のある方は、気軽にお問い合わせください。
まとめ
本記事では、江戸時代を代表する印籠師や、印籠作品を紹介していきました。印籠にはさまざまな技法が用いられた装飾がとても美しく、伝統工芸品としての確かな価値があります。
本記事で紹介した作品以外でも魅力的な印籠作品はたくさんありますので、美術館などに足を運んでみるのもおすすめです。
また、以下の記事では明治工芸について詳しく解説しているため、あわせて参考にしてください。本記事があなたのお役に立てることを願っております。