伝統工芸品で知られる印籠とは?歴史や魅力、根付との違いまで詳しく解説
印籠と聞くと、テレビの時代劇を想像する方も多いでしょう。テレビで見かけることもある印籠は、さまざまな技術が用いられた伝統工芸品です。
優れた装飾が用いられており、ファッション的な側面もありながら、細かい構造で実用性にも優れています。
- 「伝統工芸品としての印籠に興味がある」
- 「印籠の歴史・魅力を知りたい」
中には、上記のようなことを知りたいという方も少なくないでしょう。
そこで本記事では、印籠について詳しく解説します。あわせて、印籠の歴史や魅力、実際の作品についても紹介するので、ぜひ参考にしてください。
印籠とは
水戸黄門という時代劇でもよく見る印籠とは、男性の腰に下げる小さな容器のことです。当初は印や印肉の入れ物として使われていたことから「印籠」の呼び名がつきました。
一般的には筒状をしていますが、作品によっては丸い形のものや楕円形のもの、鞘の形をしたものまであります。印籠の筒状になっている部分は3~5段ほどに分かれており、それぞれの段に小さな物を入れることができるのです。
また、印籠には紐がついており、紐は帯に引っ掛ける役割を持つ「根付」と印籠をつなぐ役割を果たします。さらに、これらのパーツがばらけてしまわないように「緒締」という玉のようなパーツも使われていることが特徴です。
印籠と根付の違い
印籠とよく間違われるものとして、根付が挙げられます。根付とは、印籠と紐でつながっているパーツのことです。
根付には、腰から下げて持ち歩く印籠が落ちてしまわないよう、帯の端に引っ掛かりを作るという役割があります。つまり、印籠は根付があることで、腰から下げて持ち歩くことができるのです。
また、根付には小さな玉の形をしたものや、動物を模したものなどがあります。このように、印籠と根付はそもそも別のパーツであり、用途や大きさ、形状も異なるのです。
印籠の歴史
印籠は、室町時代に中国から伝来したと言われています。当初は印や印肉を持ち歩くための容器でしたが、徐々に公卿たちの火打ち石入れとして使われるようになっていきました。
しかし、火打ち石は火災の原因となることから、殿中への持ち込みが禁止され、その後印籠は薬入れとして使われるようになります。薬入れとしての印籠は主に武士の間で扱われ、持ち歩きやすいようにより小さな容器に変化していきました。
さらに、装飾も施されるようになったことで、印籠は江戸時代の人にとっておしゃれアイテムのひとつとして親しまれていきます。このように、印籠はその時々の需要によって用途や見た目が変わっていき、今では伝統工芸品のひとつとして保存されているのです。
印籠の構造
印籠は一般的には筒状をしていますが、実はその中身は3~5段の容器が積み重なってできています。蓋にははめ込み式のものが使われており、この構造をしていることで薬の変質を防ぐことができていたのです。
また、印籠の左右には紐通し用の穴が開いており、その穴と「緒締」という小さな玉のようなパーツを紐でつなげます。こうすることで印籠のパーツ同士がばらけず、そのまま持ち歩けるようになるのです。
さらに、根付をつければ、腰からぶら下げても落ちない印籠が出来上がります。これが印籠の構造です。
印籠に使われている技術
印籠には、さまざまな技術が使われています。例えば、漆を使って描かれた絵「漆絵」や、金の粉「蒔絵紛」を使って装飾する技法「蒔絵」などです。
さらに、貝殻を装飾に用いた技法「螺鈿」や、工具のひとつ「鏨」で金属を彫る技法「彫金」なども用いられています。これらの技術を用いて、山水文などの風景や動物、植物などが描かれるのです。
また、家を象徴する紋章「定紋」が大きく描かれている印籠も有名です。このように、印籠の作品にはさまざまな技術と美しい装飾が施されています。
伝統工芸品としての印籠の魅力
伝統工芸品としての印籠の魅力は、前述した通り装飾の幅広さや美しさにもありますが、それだけではありません。手のひらに収まるほどの小さな印籠に美しい装飾が施されている点も、海外の人を中心に魅力とされています。
また、印籠に付いている根付や緒締も印籠の魅力のひとつと言えるでしょう。根付や緒締にもさまざまな形状や装飾があり、根付には特に動物の形をしたものが多く見られます。
緒締はシンプルなものが多いですが、それでも素材や色味は豊富にあるため、シンプルながらも見た目を楽しむことができるのです。このように、印籠単体の装飾だけでなく、それぞれのパーツが一体になったときの美しさも、印籠の魅力の1つと言えるでしょう。
変動していった印籠の価値
印籠は、美しい見た目で魅力の高い工芸品だと言えますが、実はその価値は時代とともに変動しています。中でも、明治維新を迎えた時には旧幕時代の悪弊だとされ、大量の作品が海外に輸出されることになりました。
その後は、印籠の価値が改めて認識されるようになりますが、今度は開国後に輸出品が作られるようになっていきます。さらに、一部の名品の高騰に伴って、名品を模倣した作品が作られるようになりました。
昭和時代に入っても模倣作品は増え続けます。こうして、開国後以降には歴史的背景のない印籠作品がたくさん生まれてしまったのです。これにより、印籠の価値は再び下がっていってしまいます。
このように印籠の価値は時代によって高くなったり、低くなったりし、現在では伝統工芸品として評価されているのです。
江戸・明治時代の印籠作品
印籠の魅力や価値が分かったところで、明治時代と江戸時代の印籠作品を見ていきましょう。豪華な見た目の作品や、蒔絵師として有名な作家の作品を紹介していきます。
精度の高い技法が多く使われているため、ぜひ細かい装飾部分にも目を向けてみてください。きっと印籠の魅力が分かるはずです。
明治時代の印籠作品
まずは、明治時代の印籠作品を見ていきましょう。
富士見西行蒔絵螺鈿印籠
この作品は、文様が描かれている箇所を肉上げして、蒔絵が施される「金薄肉高蒔絵」や螺鈿の技法が用いられています。これらの技法で描かれた富士の絵は、とても豪華で魅力的です。
さらに、根付には鬼の絵が描かれており、強いインパクトが感じられます。この根付は、木製鬼面象嵌 金蒔銘「不若者有智遠仁者疎道 七十六翁南湖口」という作品です。
この印籠は、ピンク色の印籠紐もあいまって、とても目が引く作品になっています。
花鳥円文蒔絵螺鈿印籠
2つ目の作品は、底裏線銘「芝山作」の「花鳥円文蒔絵螺鈿印籠」です。
この作品にも金薄肉高蒔絵や螺鈿が施されています。ちりばめられた貝殻の破片が偏光しており、とてもきらびやかな印象を受けます。描かれた花や鳥の絵柄も繊細で、美しい印籠と言えるでしょう。
江戸時代の印籠作品
続いて、江戸時代の印籠作品です。江戸時代の印籠作品としては、塩見政誠の「漁夫蒔絵印籠」や、飯塚桃葉の「紅葉蒔絵印籠 銘 桃葉(花押)」などが挙げられます。
塩見政誠も飯塚桃葉も有名な蒔絵師で、とても豪華で美しい装飾を施す点などが評価されています。具体的な作品の見た目や解説は下記の記事で行っていますので、参考にしてみてください。
明治時代の印籠として紹介した作品とはまた違った魅力を知ることができるでしょう。
銀座真生堂では明治工芸品を取り扱っております
銀座真生堂では、魅力的な印籠作品と同じ明治工芸品である「七宝焼」を取り扱っております。七宝焼は美しい模様や色彩が表現された、現代の技術では再現できないとされる超絶技巧品です。
銀座真生堂は、唯一の明治期の七宝焼専門店として常時、並河靖之、濤川惣助など名工の作品を保有できています。美術館などでガラス越しにしか見ることが出来なかった並河靖之、濤川惣助の作品を実際にお手に取って鑑賞、ご購入出来る唯一のギャラリーです。
また、銀座真生堂では所有している作品を美術館での展覧会などへ貸出すなど文化活動も行なっております。ご興味のある方は、気軽にお問い合わせください。
まとめ
本記事では、印籠とは何かや印籠の歴史、魅力など印籠について幅広く紹介しました。印籠はさまざまな技法が用いられた装飾がとても綺麗で、伝統工芸品としての確かな価値があります。
本記事で紹介した作品以外でも魅力的な印籠作品はたくさんありますので、美術館などに足を運んでみるのもおすすめです。
また、以下の記事では明治工芸について詳しく解説しているため、あわせて参考にしてください。本記事があなたのお役に立てることを願っております。