明治工芸

蒔絵の6つの種類!蒔絵に使われる技法や素材の種類まで詳しく解説

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「蒔絵にはどんな種類があるの?」
「蒔絵の技法の種類を詳しく知りたい!」

蒔絵は日本を代表する伝統工芸品のひとつです。漆に金や銀の金属粉によって描かれた作品は非常に美しく、日本だけでなく海外でも高く評価されています。

とくに繊細で華麗、燦然と輝く蒔絵の美しさに魅了されたヨーロッパの人々は、蒔絵を「ジャパン」と呼び親しみました。そんな蒔絵には、いくつかの種類があります。

それぞれの種類によって特徴があり、違った美しさがあります。中には、蒔絵の種類について詳しく知りたいという方もいるでしょう。

そこで本記事では、蒔絵の種類について解説します。技法や素材の種類など、あらゆる側面から解説するため、ぜひ参考にしてください。

蒔絵とは

蒔絵とは、漆工芸の代表的な加飾技法のひとつです。漆で絵や文様を描き、蒔絵粉と呼ばれる金属粉を蒔いて装飾することから「蒔絵」と呼ばれるようになりました。

蒔絵が作られるようになったのは、奈良時代からとされています。その後、平安時代に「蒔絵」と呼ばれるようになり、鎌倉時代に蒔絵の基本的な技法が生まれました。

明治時代には、近代化に必要な外貨を取得するために制作され、海外輸出向けの工芸品として海外に輸出されるようになります。その後、海外から高く評価され、ジャポニズムを巻き起こすきっかけとなりました。

蒔絵の6つの種類

ここからは、蒔絵の代表的な6つの種類を解説していきます。

それぞれ詳しく解説するため、ぜひ参考にしてください。

平蒔絵

蒔絵の中で最も基本的な技法が使われているのが「平蒔絵」です。一般的に「蒔絵」とは平蒔絵のことを指します。

平蒔絵は漆で絵や文様を描き、漆が固まる前に蒔絵粉を蒔いて表面に付着させ、装飾するのが特徴です。漆が乾いてから蒔絵粉が剥がれないように上から漆を塗り、漆が固まったら蒔絵部分を研いで作ります。

また、平蒔絵には「消し平蒔絵」と「磨き平蒔絵」の2種類があります。消し平蒔絵とは、漆で薄く絵を描き、その上に「消し金粉」と呼ばれる金属粉を粉筒または、真綿に付けて蒔くのが特徴です。

磨き平蒔絵は、消し金粉より粒子の粗い金粉を蒔いて製作します。ほとんどの工程は消し平蒔絵と同じですが、より光沢のある蒔絵になることが特徴です。

研出蒔絵

研出蒔絵とは、最も古い技法が使われている蒔絵です。漆で絵や文様を描いてから蒔絵粉を蒔き、蒔絵粉が剥がれないように上から漆を塗るところまでは平蒔絵と同じ工程になります。

しかし、その後全面に漆を塗り込み、固まった後に絵や文様を研ぎ出す工程があることが大きな特徴です。絵や文様を研ぎ出すことで、優しい印象の蒔絵を表現することができます。

また、蒔絵と塗り面が同じ高さであることも研出蒔絵の特徴のひとつです。

高蒔絵

高蒔絵は、下地よりも蒔絵部分が高くなっている蒔絵のことです。高蒔絵は、立体的に見せたい部分に高上用の下地となる漆を塗りつけ、乾燥してから平蒔絵を描いていきます。

蒔絵の中で最も難しい技術が必要であり、高上用の下地の素材によって呼び方が変わります。乾燥させた蒔絵にさらに漆を厚く塗る「漆上げ」や錆漆を塗る「錆上げ」、蒔絵部分に炭の粉を蒔いて高くする「炭粉上げ」などが代表的です。

高蒔絵は、平蒔絵や研出蒔絵と比べると多くの工程を経て作られており、立体的かつ遠近感があるのが特徴です。

肉合研出蒔絵(ししあいとぎだしまきえ)

肉合研出蒔絵は、高蒔絵と研出蒔絵の技術を組み合わせて応用した装飾方法が活用されている蒔絵のことです。表現の幅が非常に広く、高級感のある仕上がりになることが特徴として挙げられます。

現代も残る国宝や重要文化財に指定されている漆器の中には、肉合研出蒔絵の技法が使われている作品が多くあります。蒔絵の中で最も豪華な仕上がりになるのが、肉合研出蒔絵と言えるでしょう。

木地蒔絵(きじまきえ)

木地蒔絵は、漆塗りされていない状態で直接蒔絵を施し、白木地の美しさを生かした蒔絵のことです。蒔絵は基本的に漆器に描きますが、木地蒔絵では白木地という漆を塗っていない木地に絵を描いていきます。

木の魅力が損なわれないように蒔絵を行うことから、非常に難しい技術が必要とされています。錫金貝(すずかながい)を養生として蒔絵を描く部分だけ切り抜き、白木地に貼り付けて蒔絵を描いていくのが特徴です。

近代蒔絵

近代蒔絵は、シルクスクリーン印刷やパッド印刷を用いて、蒔絵の風合いを再現している蒔絵のことです。手描きのものとは異なる蒔絵粉を使用しており、スクリーン蒔絵と呼ばれています。

近代蒔絵の特徴は、低価格で蒔絵の風合いを楽しめることです。最近では、ボールペンやお椀、蒔絵シールなどがよく作られています。

蒔絵技法の種類

ここからは、蒔絵の技法の種類を紹介します。蒔絵には、平蒔絵や研出蒔絵、高蒔絵などの種類がありますが、さらに蒔絵の表現に深みを持たせる細かな「蒔絵技法」があります。

代表的な蒔絵技法を表にまとめたので、ぜひ参考にしてください。

項目詳細
描割( かきわり )葉の葉脈や鳥の翼などの境界線を表す部分に漆を塗らずに蒔絵粉を蒔く技法
毛打ち( けうち )磨き仕上げが終わった後の蒔絵の上に平蒔絵で線を描く技法
針猫(はりがき)蒔絵粉を蒔いた後に針などの先端が鋭利なもので細い線を描く技法
螺鈿(らでん)貝殻を文様に切り、はめ込むまたは貼り付ける技法
卵殻塗( らんかく )ウズラの卵の殻を酢につけて黒い模様を取り、形を整えて漆で貼り付ける技法
銀露( ぎんつゆ )葉についた露を表現するために用いる技法
置平目( おきひらめ )平目粉(丸い金粉を小判型に押し潰したもの)を並べて貼り付ける技法
絵梨子地( えなしじ )蒔絵の文様以外の面に金銀粉などを蒔く技法 

どの技法も高度な技術が必要であり、各技法による繊細な表現が蒔絵の魅力をより引き立てています。

蒔絵の素材の種類

ここからは、蒔絵に使われる素材の種類を消化していきます。今回紹介するのは次の7つです。

それぞれの素材について以下で詳しく解説するため、ぜひ参考にしてください。

漆(うるし)

漆とは、ウルシ科に属する木の幹に傷をつけて出てくる天然の樹液のことです。日本では「ウルシノキ」から取れた樹液を漆として使用しています。

ウルシは主に日本や中国・朝鮮半島・ベトナム・タイなどの東アジアから東南アジアにかけて分布しています。安定的に漆が取れたことが日本で漆工芸が発展した大きな理由のひとつです。

漆の特徴としては、絶縁性が高いことです。一度固まると酸やアルカリなどの影響を受けないため、長い年月を通して良い状態のまま保管することができます。

蒔絵粉(まきえふん)

蒔絵粉とは、蒔絵で使われる金や銀、銅、真鍮などの金属粉のことです。金属の塊をヤスリで細かくして丸めた「丸粉」や丸粉を押し潰した「平目粉」、金箔の端を粉状にした「消粉」など様々な種類があります。

蒔絵粉があることで作品に光沢や色々な表情が生まれるため、蒔絵をつくる上で非常に重要な素材といえます。

青貝(あおがい)

青貝は、夜光貝や鮑貝、メキシコ鮑貝といった螺鈿細工に使われる貝の総称のことです。螺鈿細工では「薄貝」と「厚貝」に分けられ、目的によって厚さを調整します。

薄貝は、煮貝法によって貝の層を剥がして製作します。厚貝は、鏨(たがね)や糸ノコギリで文様に切ったあとヤスリで形を整えて使用するのが一般的です。蒔絵粉では表現できない輝きを表現できる素材です。

蝶貝(ちょうがい)

蝶貝とは、その名の通り貝殻のことであり「白蝶貝」と「黒蝶貝」に分けられます。白蝶貝は、30cm以上にもなる大型の貝であり、貝の内面に現れる虹色の輝きが魅力です。

黒蝶貝も20cm以上になる大型の貝であり、赤や緑、黄色の色素が混合した豊富な色合いの真珠を生み出すことが特徴です。蒔絵に独特な雰囲気と美しさを表現できる素材になります。

琥珀(こはく)

琥珀は、樹脂の化石です。大きく分けて、橙や黄・褐色・赤・白のものがあります。

ものによって透明度に違いがあり、どの琥珀を使用するかによって蒔絵の雰囲気が大きく変わります。また、琥珀を加圧加工し、表面から染料を浸透させて色をつけることも可能です。

最近では、染色技術が発達したことで、今まで難しいとされていた青い染色の琥珀も作れるようになっています。

鼈甲(べっこう)

鼈甲とは、南洋に生息しているウミガメの甲羅のことです。古くから高級な装飾品として重宝されており、独特な飴色の模様と光沢が魅力です。

現在、鼈甲はワシントン条約によって、海外への輸出入が禁止されています。そのため、今ある鼈甲は輸出入が禁止される前に日本に輸入された素材を加工したものであり、希少性の高い物となっています。

木地(きじ)

木地とは、木材で作成された漆工芸の素地のことです。木地には、「拭き漆」と「漆塗り」の2種類があります。

拭き漆とは、漆塗の一種で水や油から木地を守りつつ、木目の美しさを生かした漆り方のことです。木地表面の荒れや傷があるものは透けて見えてしまうことから、精度が高い木地でないと拭漆はできないという特徴があります。

漆塗りは、漆を塗った器物の総称です。江戸時代に様々な技法が生み出され、存在する技法は数百にものぼると言われています。

銀座真生堂では明治工芸品を取り扱っております

銀座真生堂では、蒔絵と同じ国を代表する伝統工芸品のひとつである「七宝焼」を取り扱っております。七宝焼は美しい模様や色彩が表現された、現代の技術では再現できないとされる超絶技巧品です。

銀座真生堂は、唯一の明治期の七宝焼専門店として常時、並河靖之、濤川惣助など名工の作品を保有できています。美術館などでガラス越しにしか見ることが出来なかった並河靖之、濤川惣助の作品を実際にお手に取って鑑賞、ご購入出来る唯一のギャラリーです。

また、銀座真生堂では所有している作品を美術館での展覧会などへ貸出すなど文化活動も行なっております。ご興味のある方は、気軽にお問い合わせください。

まとめ

本記事では、蒔絵の技法や素材など様々な種類について解説しました。蒔絵は種類や技法によって違った魅力がある工芸品です。

職人による高い技術を感じられるため、興味のある方はぜひ手に入れてみましょう。

また、以下の記事では明治工芸について詳しく解説しているため、あわせて参考にしてください。本記事があなたのお役に立てることを願っております。

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執筆者
銀座真生堂
銀座真生堂
メディア編集部
七宝焼・浮世絵をメインに古美術品から現代アートまで取り扱っております。 どんな作品でも取り扱うのではなく私の目で厳選した美しく、質の高い美術品のみを展示販売しております。 このメディアで、美術品の深みや知識を発信していきます。
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